前回までのあらすじ流しのミニヨン・レーサー北川とその一行はサラに促され、モーターボートで逃走を図った。しかしサラが突然北川を逮捕すると言いだし、口論となった。その挙句サラは北川を撃ち、北川は東京湾に沈んだ。
長い夜があけた。
尾行が下手な捜査員は警察病院に来ていた。長く暗い廊下を抜け、個室の病室へとたどりつく。ネームプレートを確認し捜査員はノックもそこそこに扉をあけた。
明るい日差しがさす病室の窓はあけられ、春の風に白いカーテンが揺らめいている。ベッドの上で背筋を伸ばして座っているサラの黒髪もたなびいていた。
捜査員「サラさん...」
サラ「とり、鳥はどこ?」
捜査員があたりを見渡すが、窓の外は住宅街が広がるばかりで、鳥がいそうな木もない。
捜査員「サラさん、元気ですか?」
サラはゆるやかに笑うが、その笑みは透き通っていて心ここにあらずであった。
回診のため医師が訪れ、捜査員にこう告げた。
医師「サラさんですが、身体は問題ありませんが、強いストレスから記憶障害に陥っているようです。昨日のことを聞くと錯乱して、何も覚えていない、思い出せないと取り乱して危険な状態になるので、絶対に聞かないで下さい。しばらくは業務に戻れないと考えた方がいいでしょう。」
捜査員「そうですか...分かりました」
サラは相変わらず窓の外を眺めている。
サラ「とり、鳥はどこ? 私の鳥はどこへ行ったの?...」
・・・
捜査員は警視庁に戻り、上長へ報告を行っている。
捜査員「課長、サラさんが容疑者を射殺、容疑者の逃亡を手助けしたものを逮捕しました。容疑者の遺体は東京湾に沈み、ただいま捜索中です。ただヘドロが多くて見つかるかどうかは...」
北川はサラに撃たれ、東京湾に沈んでいったのだ。しかしまだ遺体は発見されていない。
上長「本当に射殺したのか?」
捜査員「逮捕した一味が目撃者です。間違いありません。ほぼ即死との話です。」
上長「サラはどうした? まだ来ていないのか?」
捜査員「精神状態が不安定で、警察病院の方で療養しています。ただなんていうか、こう・・・」
上長「なんだ?」
捜査員「医師によると強いストレスによって記憶障害になっていて、経過観察が必要とのことです。」
上長「そうか、懇意にしていた北川のことだからな、それも納得がいく。しかしな、警察官たるもの、公私混同はいかん。これを乗り越えれば一回り成長することができる。お前もよく肝に銘じておけよ。」
捜査員「はっ!」
捜査員が部屋から出ていったあと、上長は携帯電話を取り出し、どこかへメールを送った。
・・・
幹部A「ついに北川が死んだか」
幹部B「クックック、やつはレッド・ホイールの中でも若僧。もとからこうなる運命だったのよ。」
幹部C「大人しく我らがダーク・ゴースト、いや今は財団法人・日本ミニ四駆振興会のメンバーになっていればよかったものを。そうすれば川崎ファクトリーで毎日ミニ四駆を作り続けていられたのにな。ははは、残念だよ。」
幹部A「すべては皇帝の計画どおりだ。計画は第2フェイズにはいるぞ。」
幹部B「ああ、分かっている。これまではほんの序章だ。『ミニ四駆競争法』が成立し全国のミニ四駆レースが合法化されれば、これまで以上に資金が潤沢に回る。しかもその資金のうちの一部が公共設備の建設や整備に使われ、爆発的にミニ四駆人口が増える。そしてマーケットが膨張していき経済効果も抜群だ。」
幹部C「ふはは、楽しみだな。」
幹部A「ああ、ダーク・ゴースト...いや日本ミニ四駆振興会の栄光を祝して。」
幹部B・C「乾杯!」
幹部たちは手元のミルク牛乳を一気に飲み干した。
・・・
数週間後。浜田、学生、ユキたちが東京湾に集まっていた。嫌疑不十分で拘留を解かれ、無罪放免となったのである。北川が沈んだ東京湾を3人は見ていた。
三人には重い沈黙が流れていた。遠くをみつめるユキ。学生が重い沈黙を破った。
学生「北川さん、まだ見つかってないんですよね...」
浜田「こないだもそうだったけど、またひょっこり顔だすでっしゃろ、不死身の北川とかいって、ガハハ...」
浜田のカラ元気がいまにも消えゆきそうである。
学生「でも、あの出血では...、す、すみません。」
睨むユキに気付き、学生は口を閉じた。
ユキ「あの年増女、許せない...」
最愛の北川を目の前で殺されたユキにとって、サラは憎悪の対象となっていた。しかしそのサラも強い精神障害で未だに警察病院の中である。3人はそのことをまだ知らない。
ユキ「この仇は必ず討つわ。みててね、ジョージ。」
ユキは赤いホイールのミニ四駆を取り出し、大きくふりかぶって海に投げた。
ミニ四駆はメッキカラーを夕日に煌めかせながら、水面に落ち、そしてゆっくりと沈んでいった。ミニ四駆を投げたユキは強い決意を胸に踵をかえし、歩きだした。
浜田「ど、どこへいくんですか、ユキさ~ん、待って~」
学生「私もいきます!」
3人は夕日が差し込む東京湾を背に、歩きだした。まるで赤いホイールのような太陽に照らされて伸びる3人の影...北川が消えようともミニ四駆の戦いはまだ続く。戦え浜田、ユキ、学生。正義を掴むまで。
【第一部完】
この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。
ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です。
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【告知1】「流しのミニヨン・レーサー北川(第一部)」が電子書籍(Kindle Direct Publishing)になります! ミニ四駆を知らない方でも読めるように解説を加えるほか、加筆修正を行い、さらに情景的になる予定です。一度読んだ方もこの機会にぜひご一読下さい。発売時期、5月を予定。
【告知2】
ミニ四駆のテクノロジーを専門家、企業に解説してもらう「月刊 ミニヨン技術」を5月24日に電子書籍(KDP)で発売予定。タミヤ新製品情報、有力レーサーのインタビュー、マシン解説に加え、グラビアあり、ミニ四駆小説ありとなる予定。詳細は追ってお知らせします。
【第二部予告】
死んだ北川。精神錯乱したサラ。大きな決意を胸に行動を起こすユキ。「ミニ四駆競技法」が施行されて一変する日本社会。次回「流しのミニヨン・レーサー北川」改め「新橋の虎・浜田のミニヨン合戦(タイトル未定)」はますますパワーアップし、「月刊 ミニヨン技術」にて連載予定です。乞うご期待。