ミニ四駆小説「流しのミニヨン・レーサー北川」:第38話 浅田 #mini4wd

前回までのあらすじ

流しのミニヨン・レーサー北川はミニ四駆工場の中で元ルンペンと再会した。元ルンペンは正社員としてここで働いており、他のメンバーも同様だった。ある日ミニ四駆工場に見学にきた一行に見覚えがある顔がいた。

北川「あれは、、、確か国会議員の浅田総一郎!」

浅田といえばここ川崎の有力者であるとともに、国会議員として政界の重鎮であった。その国会議員がなぜミニ四駆工場にいるのだろうか。神山は工場の設備や工程について説明した上で、青少年の教育について熱心に説いていた。

神山「...ミニ四駆は子供たちの情操教育に好影響を与えるだけでなく、技術立国日本を支えるエンジニアの育成に素晴らしい効果があるのです。単に組み立てるだけではなく、そこに創意工夫を加えること。試行錯誤の結果がレース結果として出てくることで、見る、考える、仮説を立てる、行う、といった基本的なPDCAサイクルを自然と学べるのです。

先の紛争後、日本は再び混乱の極みに陥りました。論理より情緒、安心安全を無闇に求めるあまり不安感に立脚した先入観、理論はなく理屈ばかり、結論ありきの果てしない議論。オカルトとまでいっていいでしょう。そんな日本に誰がしたのか。日本人は元々そういう社会だったのか。否。

日本が技術立国であることは、ここ昨今の話ではありません。戦国時代、ポルトガルより伝わった火縄銃。見よう見まねで作り、量産体制を作ったのは日本人の工夫によるものです。その結果、火縄銃の保有台数は世界トップにまで躍り出ました。さらに3段撃ちの鉄砲隊、生産だけでなく運用まで独自の工夫がなされたのです。

技術と職人の技。これが日本人の根幹です。現在、この根幹が揺らいでいるといっても過言ではありません。そこで単なる授業、教育だけではなく、ミニ四駆で実際に手を動かしレースの現実をみることで理論的な考え方と物事の真理を見つけることができるのです。そして本来の日本人が持っている素晴らしい能力を開花することでしょう。

そのためには、文化として慣習として、よりもっと、社会に根付かせていく必要があるのです。そのためには...」

神山の熱弁の前に、浅田はうんうんと大きく頷いている。そして浅野は言った。

浅田「神山さん、よく分かりましたよ。青少年の教育、そして技術立国日本のために、ともに働こうではありませんか!」

二人はがっちりと握手を交わした。そして取り巻きと共に、工場から出て行った。

北川「...国会議員と何をしようというのだ...」

普段は北川の監視についている人間も一緒にいなくなり、そこへ元ルンペンがやってきた。

元ルンペン「北川さん、あれは浅田議員ですね。ミニ四駆工場に、なんの用なんでしょう。ギャンブルの街・川崎だから賭けレースを公営にしようとしてたりして、あはは。」

普段細い北川の目がかっと見開かれた。

北川「それだ! それに違いない!」

元ルンペン「えっ、まさか!」

北川「奴は賭けレースを合法化しようとしているんだ。そのために国会議員を...しかしそう簡単に議員が動くとも思えないが。」

元ルンペン「北川さん何言っているんですか、議員なんてお金で動くでしょ。政治献金ですよ、献金。まあお金がたくさん要りますけどねえ。」

北川「・・・しまった、そういうことだったのか。」

北川は何かに気付いたようだ。元ルンペンは不思議そうな顔をしている。

北川「そうなったら、ここに大人しくいるわけにいかない。ここから脱出したい、手を貸してくれ。」

元ルンペン「えええ、何言っているんですか、こんなにいいところなのに。まだ一緒にいましょうよ。」

遠くから監視の男が奥から戻ってきた。北川は小声で元ルンペンに言った。

北川「夜、来てくれ。話がある。」

監視「お前たち何してる、持ち場に戻れ!」

元ルンペンは理解せぬまま、持ち場に帰っていった。北川は作業を黙々と続けた。

そして夜更けとなった。

(つづく)

この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。

賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。

ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です。

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