ミニ四駆小説「流しのミニヨン・レーサー北川」:第37話 再会 #mini4wd

前回までのあらすじ

流しのミニヨン・レーサー北川は理想郷と呼ぶミニ四駆工場の中に専用のブースを与えられた。あたりを見ると見覚えのある顔を見つけた。

北川が見つけた赤い顔の男は、以前川崎の公園でルンペン、いやホームレスをやっていた男であった。しかし今では髪も髭もすっきりとして身綺麗になり、なにより健康そうである。元ルンペンは楽しそうに作業に没頭している。

元ルンペン「ルルルン、ルンルン、ルルルン、ルンルン、ルルルンルン、ルンルンルン」

鼻歌交じりに作業をしている元ルンペンに、北川は声をかけた。

北川「おい、もう体は大丈夫なのか?」

元ルンペン「えっ? あっ! あなたはあの時の!」

元ルンペンは北川を見つけると、手を止めて駆け寄ってきた。

元ルンペン「先日は本当にありがとうございました。あの時はおかげで命拾いしましたよ、えっと確かお名前は...」

北川「北川だ。それはそうと、なぜこんなところにいる?」

元ルンペン「あの時北川さんに病院に運んでもらって、それからしばらく入院していたんです。でもお金がないから治療費が払えず、私も病院も困っていたときに神山さんが現れて...」

病院に現れた神山は元ルンペンの治療費を払った上、ここ川崎ファクトリーに連れてきたという。

元ルンペン「いやね、私がこうして生きていられるのは本当に北川さんと神山さんのおかげですよ。神山さんは私の腕前を買ってくれて、ここで働いてくれないか、ミニ四駆の組み立て作業をしてほしい、っていってくれたんですよ。もう嬉しくってね、仕事が出来るだけじゃなく、自分の大好きなミニ四駆作りですからね。これに勝る幸福はないですよ。」

北川「...」

北川は神山が元ルンペンを利用しているだけだと言いかけたが、余りに喜んでいる元ルンペンの表情をみて黙った。

北川「...体の方はもういいのか?」

元ルンペン「御蔭様で、随分よくなりましたよ。あの時助けてもらわなかったら、死んでましたからね、本当に北川さんは私の命の恩人ですよ。それにここでまた会えるなんて、嬉しいなあ。今度こそミニ四駆勝負、しましょうね。負けませんよ!」

北川「あ、ああ、そうだな。」

元ルンペン「じゃあ、作業に戻るので、また後で!」

元ルンペンは足取り軽く、自分の作業場に戻って行った。

・・・

この工場は規則正しい。朝8:30に作業を開始し、10:30に10分の休憩、12時10分から40分間昼休み休憩がある。この時間に昼食を済ませ、12:50からまた作業に入る。14:50に10分休憩し、17:00に終業となり、残業はない。しかしその後は「自己研修」という名目でほとんどのメンバーが残り、思い思いのマシンを作ったり走らせている。なんのことはない、しじゅうミニ四駆を作って遊んでいるだけのことだ。

全寮制のため、メンバーは工場の中の個室に寝泊まりする。ただ外出申請をすれば外出が可能で、川崎のディープな夜を堪能しているようだ。もちろん囚われている北川は例外である。

メンバーには賃金が支払われているだけではなく、健康保険や雇用保険、年金に福利厚生まで完備しているという。ダーク・ゴーストは闇の組織のはずだが、どうやらこのファクトリーは登記された株式会社だということが分かってきた。ファクトリーが表組織であるだけでなく、待遇はよく、従業員からの評判もいい。

元ルンペン「私ですか? ええ、正社員ですよ。久々の正社員だからねえ、もう感動ですよ。」

正社員になると雇用保険を支払う代わりに、失業した場合でも一定期間雇用保険が貰える。それを理解している元ルンペンは、正社員であることを誇りに思うと同時に安心して仕事に打ち込めるという。

他のメンバーは元々拉致、強制連行とゴタゴタしていたが、工場が移転したことから改めて正社員として契約、それまでの会社は退職していた。賃金もかなり高く、ボーナスも出るということから不満は少ない。何より好きなミニ四駆を仕事としてできることから全体のモチベーションは高く、雰囲気もよい。

そんな中、北川は一人監視付きで黙々と作業をしていた。昼休みもブースから出ることはなく、支給された弁当を食べるだけだった。ブースにはPCもなく、マインスイーパにソリティア、ネットサーフィンをすることも出来ない。そのため食事が終わると再びミニ四駆作りに戻る毎日だった。

会話といえば唯一元ルンペンが遊びにきて少し言葉を交わすくらいだが、それも監視の前では自由というわけにいかなかった。

神山は毎日ではないが、ファクトリーに来ていた。来ている間は他のメンバーと同じく作業をしたり、言葉を交わしたりと一般のメンバー同様だが、来ない日も多かった。その理由がなんなのかは誰も知らず、また詮索もしなかった。

・・・

そうして北川がファクトリーに来て、数カ月が過ぎた。

いつもと違い、工場内に緊張が漂っている。神山がスーツに身を固めた十数人を引き連れ、説明をしている。その中心になっている人物には見覚えがあった。

北川「...今日はいつもよりもお客さんが多いようだな」

監視「いいから、黙ってミニ四駆を作れ」

北川「あれは誰なんだい? 見たところミニヨン・レーサーではなさそうだが...」

監視「お前は黙ってろ。今日は大事な日なんだ、粗相があっては困るんだよ」

監視もいつも以上にピリピリしている。見覚えがある中心人物、ようやく北川は思い出した。

(つづく)

この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。

賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。

ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です。

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