住まいとほどよくつきあう

今日は久々に本の紹介。

住まいとほどよくつきあう

宮脇 檀


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以前から宮脇さんの本を紹介していますが、これはちょっと毛色が違っています。元々「モダンリビング」誌に連載されていたコラムを単行本にしたものなので、言い過ぎたりして苦情の投書が来たなどライブ感があります。また言及する内容も多岐にわたっており、他の本のように自分で家を建てるというものにフォーカスしているだけではありません。住居学や戦後のモダンリビングの歴史、建築家のチャレンジや大衆の求めるもの、素材の使い方、間取りのあり方などまさに教養が深まる一冊です。

戦後の日本で生まれたもの。例えばスリッパ。元々畳に素足で立ち、ごろりと横になる習性があった日本人がフローリングという土足でそのままあがる文化を取り込んだものの、土足まで取り込めなかったのでその中間をとってスリッパを発明したという。

例えばダイニングキッチン。公団住宅をデザインするにあたり、公約となっていた「寝食分離」を達成するための苦肉の策。本来はダイニングにキッチンが付属すべきであるが、実際には狭いキッチンに机を押し込んでそこで食事をしている侘しさ、uncomfortableさだけが浮き彫りになってしまった例。たまに映画で中国人の家庭でキッチンで食事をしている風景があるが、アレである。

例えば壁紙。風合いを塗り壁風にしたいのと、一方でコストを安く、工期を短くするために生まれたいんちゃんな素材。火事になれば有毒ガスが出て中の人は焼け死ぬ前に窒息死。しかも塗り壁などと違って呼吸しないから結露、かびの温床となる。

例えばお風呂場の位置。寝室から離れた場所、台所の側や玄関の側にないですか?となるとうら若き乙女がバスタオルまいて家中をパタパタと走り回ることになり、お父さんは目のやり場に困って新聞紙にうずまる。寝室から真っ裸で直接お風呂場に入れるようになっていれば、こんなことにはならない。実際、高級ホテルではそのような間取りになっている。

などなど。著者はこういった常識の非常識さを浮き彫りにした上で、生活に合わせた住まいを考えましょう、教養をつけましょうと説いている。スペース効率重視のうなぎの寝床みたいな3LDKマンションで立派なドアをつけたり、シャンデリアつけたり、L字型のソファをおいてみてもちっとも快適にならないそうだ。なるほど。

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