********************* ときめき×× 企画書 ********************* reported by T.Noma '97 6/29 -- はじめに) コナミの大ヒットゲーム、「ときめきメモリアル」のエッセンスを分析し、 バーチャルコミュニケーションのありかたを考える ときメモとは) ・自己育成シミュレーション プリンセスメーカー(プリメ)に代表される従来のキャラクターを 「育てるゲーム(育てゲー)」から、ゲーム中のプレイヤーを育て (自己研鑚)、登場キャラクタに告白されることを目的としている。 ・高校時代の追体験 二度と戻ることができない、高校時代を再び体験することができる。 また男子校出身のものには体験できなかった、共学の学園生活を 体験することができる。 ・恋愛シミュレーション 自分を磨くことで女性から「告白」されるという、男性の理想の恋愛を 疑似体験することができる。 ・女性キャラクタの豊富さ 13人の個性豊かな女性キャラクタを用意していること。 特にメインキャラクタ「藤崎詩織」はプレイヤーの好きな誕生日、血液型を 設定することができることから、現実に好きな女性を重ねることができる (現実と仮想の接点)。 ・声優 一人一人のキャラクタにアニメーション同様に声優が割り当てられていて、 キャラクタの個性の大部分を担っている。キャラクタはアニメーションとは 違い、止め絵で描かれているが、すべての台詞をアニメーション同様 声優により喋る。 (これは 大容量の CD-ROMゲームマシンによりできるようになった) ときめものキーワード) 「ときめも」がヒットした理由はいくつかあるが、キーワードにするなら2つしかない。 それは ・リアル ・バーチャル である。つまり、現実と仮想が巧みに組み合わさり、微妙なつながり具合で一つの 仮想世界を作り出していることである。 ゲームをこの2つのキーワードと、そのつながる部分で整理してみる。 - リアル プレイヤー(ユーザー) 女性キャラクタの声 - バーチャル ゲーム中のプレイヤー 3年間の高校生活 女性キャラクタの性格 女性キャラクタのビジュアル(絵) 女性キャラクタとのふれあい(イベント) - リアルとバーチャルがつながる部分(リンク) プレイヤーの名前、生年月日、血液型 藤崎詩織の生年月日、血液型 女性キャラクタの反応(リアクション) 従来の小説やゲームは「これは小説の世界よ」「これはゲームなんだから」と、 一種つきはなした物の見方ができていた。それは リアルとバーチャルが明らか にまったく別のものだと認識することができるからこそそのような理解ができる。 しかし「ときめも」のようにリアルとバーチャルのつながる部分、「リンク」が あるとその境界は曖昧になり、プレイヤーにゲームにのめり込むことを容易にさ せている。 我々が生きている現実世界の中にはそのしがらみから、特に自分の容姿や能力、 そして時間からは逃れることができない。しかしこのゲームではそのしがらみか ら解かれることができる。まずコマンドを選択することで 自分の容姿、能力を 容易に変えることができる。そして決してやり直すことができない高校生活を何 度でも自由にやり直すことができるのだ。しかしこれだけでは「ゲームの中の世 界の出来事」に過ぎない。「ときめも」の真のすごいところはこのゲームの世界 が現実世界の延長上にあるように錯覚させることだ。 通常バーチャルなゲームの世界にのめり込むにはまず現実を忘れることが一種の 儀式であった。例えばRPGの「ドラゴンクエスト(ドラクエ)シリーズ」しかり。 ドラクエシリーズのプレイヤー演ずる主人公は 世界を救うため、伝説の子供で あったり、勇者だったり、そもそもモンスターが出現する、ありえない世界の中 で戦うことを義務づけられた完全で、完成された仮想世界に生きることを目的と している。ドラクエのような RPGに限らず、シューティングゲームにおいては戦 闘機を駆り敵を撃破すること、パックマンではモンスターから逃げ、すべてのド ットを食べ尽くすことが目的である。それは単純であり、現実ではありえない仮 想世界の出来事である。 ※ RPG (role playing game) 日本語訳すると「役割を演ずるゲーム」となる。WizardlyやROGUE(UNIX 上のRPGの元祖)ではダンジョンの中のモンスターと戦い、経験値をためレベル アップを繰り返し、一番奥(地下?)にある宝物をゲットするゲーム。 さて、ここで少し整理したい。RPGやシューティングゲームの場合は実は現実を 忘れ、世界に没入することを要求されているのだ。現実を思えば自分自身の命を かけて行うことは少ない。しかしRPGではそれを毎回要求される。そして何度も 死に、生き返らせてもらうのだ。シューティングではもっと軽く、3回撃破され れば強制的にゲームオーバーとなる。現実に引き戻される瞬間である。つまり現 実とゲーム中の仮想世界を行き来することになる。これが頻繁にあると仮想世界 への没入度を高めることができない。それゆえ多くのゲームはすぐに飽きられて しまう。 夢を見ること、夢の中で夢を夢ではなく本当のことのように思うとき、それは夢 の世界に没入できているということになる。その場合、夢の中で起きたことは現 実におきたとこと同様に認知され、喜んだり悲しんだりする。夢の中で「これは 夢なんだ」と思うときがあるが、その場合は夢の世界は「現実世界」と比較した ものとして存在する。その場合、夢の中できたことは「夢」として認知され冷め た目でみることになるであろう。 「ときめも」の場合、現実は現実として捨てることなく、仮想世界へ入る、没入 することが可能である。逆にいうと、現実を捨てて仮想世界にいくことも不可能 ともいえる。プレイヤーはゲーム中でプレイヤーのデータを入れるが多くの場合 実際の自分の名前と生年月日を入れるであろう。これがまず現実世界と仮想世界 とを「リンク」させている。その他藤崎詩織のデータに、現実世界の憧れの女性 のデータを入れたりすることで仮想世界と現実世界を強力にリンクさせている。 このことから仮想世界でおきることは現実で起きることと同等であり、逆にいえ ば現実世界をベースとして仮想世界を成立させている。これが没入度を高めてい る理由である。 「ときめも」の仮想世界に住んでいる女性キャラクタはアニメ絵で描かれるバー チャルなキャラクタである。しかしその台詞はすべて声優の生の声でプレイヤー に喋りかける。この「声」も現実と仮想のリンクとなっている。昨今声優はアイ ドル化してきているが、そもそもアイドルというのは仮想のキャラクタであるか らこれは自然なことである。仮想のキャラクタは「絵」からできあがるビジュア ルと、声優から発せられる声、そして仮想の生年月日、血液型などのデータ、ゲ ーム中のイベントなどであたかも本当の女性のように感じられるリアクションか ら成立する。このように仮想と現実の境目が綺麗に隠された、現実ではないのだ けど、現実の延長上にある仮想上の人格がプレイヤーの気持ちにより作り上げら れる。 これが「ときめも」のすべての秘密である。 リアルとバーチャルのリンク) 「ときめも」が現実をベースとし、仮想とのリンクをもつことで仮想世界での 没入度(出来事の現実性)を高めたことはさきほど指摘した。ここで他の例をあげてみよう。 ・ATLUS「プリント倶楽部(プリクラ)」 ・バンダイ「たまごっち」 この2つはいわずと知れた大ヒット商品である。96年にブレイクしたものといえばこの2つをおいて、他にない。この2つにもさきほどの「ときめも」同様に「リアルとバーチャル のリンク」のキーワードが入っている。それを解析しよう。 ・たまごっち - リアル プレイヤー自身 - バーチャル 仮想生物 たまごっち - リンク 時間の概念 世話を行うこと 「たまごっち」はいわずとしれたバーチャルペットものである。もちろんこれも いつでもどこでも持ち歩けるというハンディさがヒットの一番の理由ではあるが、 現実との接点、時間の概念や育て方によって結果が大きく異なることからやはり リンクが重要な役割を果たしている。 ・プリクラ - リアル プレイヤー自身 一緒に映る人(隣人) - バーチャル フレーム 映った(デジタル化された)プレイヤーと隣人 - リンク ステッカー プリクラで重要なのは、映った自分自身は現実の自分とは違うものになっている ということだ。プリクラに映ったときにどのようにしたらかわいく映るか、女子 高生は日々研究しているが、それはいかに現実の自分自身を仮想化するかに他な らない。そしてプリクラの重要な点は「一人」では写さないというところである。 必ず二人以上で写す。そして出来上がったステッカーを二人で分け合い、至ると ころにはる。ここで重要なのは二人で分けるという点である。写真にうつったこ とは「現実」であるが、映った内容はフレームであり、デジタル化された二人の 「仮想」である。その証拠、つまり現実と仮想のリンクがステッカーであり、こ れを二人でわけることでリンクの共有を行っている。さて自分も映っているプリ クラと他の人だけがプリクラのどちらに思い入れがあるだろうか? それは圧倒 的に自分が映っているものである。それは結局現実とのリンクがあるかないかの 差なのである。 ※プリクラには他にハンディさや、価格などの面からのヒット理由もある 企画) ・ときめきPHSサービス 留守電サービスの延長 声のメッセージが留守電に入る ・ときめきウェブサーバー cookie使う メールが送られてくる 日記 on the web ・ときめきコミュニティプレイス 現実にリンクした女性ユーザ リンク(現実との接点)を重視すること。 その他のキーワード:コミュニケーション HABITATのなぞ) 仮想世界で仮想の自分を演じることを義務づけられたワールド。仮想世界のリアリティが薄かったために、仮想の自分を演じつづけることに努力が必要。 同様にチャットを目的にしたワールドではチャットを義務づけられるために それも苦痛である。 [EOF]