「これから」 by T.Noma '92.6.15 Silvia 2nd Anniversary <98の天下>  98がデビューしてからはや10年。IBM-PCに類似したアーキテクチャではあ るが、日本に於いて絶大なシェアを占める。しかしこの圧倒的な地位はゆるぎな いものであろうか。この状態がいつまでも続くのであろうか。答えは否のはずで ある。ならばそれはいつ?  98のメリットはその「絶大なシェア」にある。誰でも持っている、一太郎が 使える、ロータスが使える、データの受け渡しが出来るというメリットが今の9 8の天下を支えている。NECのコマーシャルでも「何故98なの」「98は日本 で一番売れているパソコンなんだ」「だから安心なのね」といっているように、 日本人の「皆が持っているから安心」という意識がさらにこの状況を強固なもの としている。またこのような状況において、98以外のマシンを使うことはコン ピュータを趣味で使う者でなければ単なる「変わり者」でしかないであろう。  では98のデメリットは何か。まず挙げたいのは「アーキテクチャが古い」こ とである。何度もマイナーチェンジを繰り返しているものの、その基本設計は 8086MPUのMS-DOSマシンということであり、未だに「64Kbytesの壁」に苦しめら れている。すでに時代の趨勢は32bitCPU、80386DX,SXに移行しているものの、 MS-DOSのおかげでその性能は発揮出来ていない。いわば手かせ足かせをしている ようなものである。さらに64Kbytesの壁のおかげで大容量のメモリをフルに生か せない、グラフィックを強化しづらい(メモリアクセスにセグメント計算を要す る)、I/O関係も苦しい(すでに領域は決まっている)、などすべてに悪影響を 及ぼしている。最近特にMacintoshやTOWNSなどマルチメディアマシンの台頭が激 しい今日、640x400,16色のグラフィックではいかんともしがたい感がある。ハイ レゾ、多色化は時代の要求である。今時2万5000円のスーパーファミコンや メガドライブでさえ3万2千色はでる。さらに静止画がこのクオリティでは動画 を使えるようになるのはいつのことであろうか。またオペレーティングシステム にも問題があるが、これは後で触れる予定である。  このようにハード的な問題を抱える98であるが、NECもこの問題を見逃して いるわけではない。早くからハイレゾマシンXA系(XL,XL2,XA)や最近では多色、 CD-ROM、PCMなどを搭載したGSなどリリースしている。しかしこれらがメジャー になったことはないし、これからもそんなことは起こらないだろう。それはこれ らの98の革命児がユーザにとっては「98ではない」からであろう。98が9 8であるためには革新性や新しい可能性などではなく、従来のソフトが動作し、 いままでのデータが使用出来る「互換性」が求められるからである。よってCPU だけ早くなったFAが売れに売れて、なんでもつきつきなGSは絶対に売れることは ないのである。なにがついても「従来のソフト」が対応していないものは単なる 「無駄な機能」に過ぎないのである。「無駄な機能」に大事なお金を使う客はい ない。  このようにNECは「処理速度を向上」させ、付加価値をつけて価格を下げない ようにすることに腐心し、新たなる「コンピューティングスタイル」を提唱する ようなアーキテクチャを産み出すこともなかったし、これから先もないだろう。 98の遺産は一太郎と花子、ロータス、そして「圧倒的なシェア」である。それ ではこのままの遺産で98はいつまでもつのだろうか。今年はMS-WINDOWS元年と いってもいいだろう。アーキテクチャが異なるマシンでもMS-WINDOWSが動作して いればそのアプリケーションはどのマシンでも動く環境である。またDOS/Vによ るIBM-PCの日本語対応やMacintoshの日本語環境の充実と低価格攻勢、CD-Iや家 庭用ゲーム機の低価格、大容量化、処理能力の向上。そして今まで「マルチメデ ィア」として線引きされた機能が当たり前の世の中になり、UNIXマシンの超低価 格、RISCチップによる飛躍的な高性能化。パソコンがワークステーション並の処 理能力を持つか、パソコン並の(価格の)ワークステーションかといわれる時代、 98の天下は今正に崩れんとしているといっても過言ではない。事実、バブル崩 壊の去年の出荷台数は前年割れしている。98が98である必要が無くなった時、 98が持つ優位性もまた無くなるのである。 <98の次にくるもの>  MS-WINDOWSをみてもわかるように、これから先ハードウェアの差異はシステム によって吸収されることになる。またそれに伴ってオペレーティングスタイル自 体も変化すべきである。ファイルやドライブを意識させる今のOSはバイクの運 転をするのに(一般人には関係ない)エンジンが2ストロークか4ストロークか を意識させるようなものである。バイクにはアクセル、ブレーキ、クラッチ、シ フトがあれば走るのである。これだけでもアクセルターン、ブレーキングドリフ ト、ジャックナイフ、ウィリーが出来るのである。コンピュータも一緒。操作系 はシンプルであればシンプルなほど良い。ストリートファイター2ではジョイス ティックとボタンでいくつもの技をくりだすことが出来るのである。  マックは基本的なオペレーティングとして1ボタンのマウスを用いる。殆どの 操作はこれで事足りるようになっていて、ソフトウェアの「操作性追及」の姿勢 と連係がとれている。この「ユーザに優しい姿勢」が評価されて現在の地位を確 保している。また常にオペレーティングやシステムの更新を行う姿勢を保ち、そ れをソフト的に行っている。またどうしてもハード的な更新があっても古いマシ ンでもボードをさすなどすれば対応することが多い(これはIBM-PCも同じである)。 これはそもそものハードウェアが将来性のあった68000を採用したことにも起因 する。  余談であるがIBM-PCもCPUにはこだわってなく、16bitCPUとして開発のす すんでいた8086と68000の早かったほうを採用することにしていた。結果はご存 じのとおり8086が採用され、対抗意識のあったアップル社は68000を採用したの である。もしこれが逆であったなら、今のパソコン環境は大きく変化したであろ う。またIBM-PCを制約するのはCPUだけでなく、8086をターゲットとしたMS-DOS にもある。ハードウェア的にも、経営戦略的にもIBMはMicroSoft社に制約され続 けているのである。  マックのオペレーティングスタイルは一貫性があり、学ぶべき点は多い。しか しそのマックといえど、ハードウェアの基本設計は古く、オペレーティングスタ イルのアイディアは20年前にアラン・ケイによって提唱されたものである。マ ウスとアイコンによるオペレーティングより一歩すすんだもの、それが重要であ る。マウスの欠点には「触感が足りない」がある。必ず画面を見ないと何も出来 ない。いわゆるブラインドタッチが出来ないし、リアクションがソフトウェア的 に必要となる。