なぜX68000なのだろう  それはコンピュータ選びからはじまった。コンピュータは何で選ぶものだろう か。マシンの表面性能、潜在能力、シェア、ソフトウェアのいかんなどあろうが、 その中で一番重要視するところが良いものが選ばれるのは自然の成り行きである。 では何を重要視するのだろうか。  ところであなたはどんな女の子が好みだろうか。まずは「外見」が良くて、な おかつ「性格」が良い子が(人にとって「良い」は異なる)一番良い子となるは ずだ。同じ性格の子なら、かわいいこのほうがいいに決まっている。実はこれは コンピュータにもいえることなのだ。実は誰でも見た目の「デザイン」が良いに 越したことはない。同じCPU、同じクロック周波数、同じ性能ならちょっと高く ても意外とデザインに惹かれることは多いはずである。そして中身が知られてな いけど実はよかったりなんかすると、もう一目ぼれである。たとえその機種のシ ェアが低く、マイナーであっても実に気になる存在になる。そうなったときに、 それでもシェアの多い、無難なコンピュータを選ぶ人はきっとお見合いでも無難 な人を選ぶのであろう。そしてマイナーなものを選ぶ人は人生をかけてでも後悔 しない方を選ぶ。つまりリスキーな方をだ。人によってはそれが吉と出るし、凶 と出る場合もある。それは相性によるし、運によるだろう。しかしうまくいった 時は、メジャーで無難な機種を選んだ場合よりも遥かに豊かなコンピュータライ フを送れるに違いない。人生もそうだろう。  「デザイン」「性能」から見た場合、X68000という機種は非常に魅惑的である。 CPUに68000を据え、実装最大メモリ12MBという広大なメモリ空間は、デビュー当 時の64KBがどうたらとかいう、8bit時代の香のするみみっちい世界にあっては考 えられないほどのものであった。そして今日、未だにみみっちい世界を尻目に X68000はUNIXもどき、64KBの壁のないMS-DOSもどきマシンとして、そしてデビュ ー当時からの汚名とも名誉ともいえる「ゲームマシン」として現在に至っている。 世界広しといえど、このような「なんでもモドキ」になれるマシンは少ない。必 ずそのマシンの位置する場所があり、その範疇からは外れることなく商品展開を 行う。例えば98は98であって、一太郎&ロータスマシンとして君臨している。 MacintoshはそのヒューマンインターフェースとDTPに向いた思想、24bitフルカ ラーによるCG、MIDIを使った音楽など、アプリケーション(ツール)指向なマシ ンである。そしてAMIGAはまさしくCG&GAME、TOWNSはマルチメディアマシン(意 味不明なほど奇可解なコピーである)としてCD-ROMを標準装備している(だけ? )。本家IBM-PCは、そのCPUパワーにまかせたアプリケーション&GAMEで押してい る。必ずこれら、現在存在するマシンは自分のアイデンティティを持っているの だが…。X68000は一体何物であろうか。きっとX68000はユーザの「夢を反映する マシン」なのであろう。つまりユーザの鏡である。そのユーザがなにかをしたい、 作りたいという欲求に応えるだけのすべての可能性を凝縮したマシンといえるの ではないか。デビューからすでに5年を経て、そのCPUパワーがすでに時代遅れ のものと化した今でも、それを除けば未だに色褪せないハードウェア設計とい えるだろう。また逆をいえばCPUパワーを望むひとにとって、これほど貧相なマ シンはないことになる。  では一体今のユーザ離れはなにが問題なのだろうか。CPUパワー不足は勿論だ が、やはりまわりのコンピュータそれぞれに魅力が倍加してきたといえるだろう。 UNIXマシン、IBM-PCの低価格化によるUNIXを使いたいユーザ離れ、ゲーム専用機 の低価格、高性能によるゲームユーザ離れ、ゲームユーザのソフトウエアの違法 コピーによるソフトハウス離れなど色々な要因がある。結局このマシンを通して 「夢を語る」ことが出来なくなったのだ。色々な夢を語りたいユーザが集まった ものの、今になって急に現実を見せられている。価格が高く、出来ないことが多 くなってきて、他に良いマシンがあるのは非常につらいものだ。例えばフライト シミュレータをしたいと思っても、ポリゴンモデルは出来ない。IBM-PCコンパチ i486,33MHzくらいで動かすのが得策であろう。DTPしたいならマック、ゲームす るならスーパーファミコンとなる。  すでにパーソナルコンピュータとしての時代は終わりを告げつつある。何をし たいか、何をするのかという目的によってマシンを選ばなけらばならないのであ る。その昔パソコンは「何が出来るの」と問われると「やろうと思えば何でも」 と答えていた。その実、何も満足に出来ない代物であった。この詐欺のような事 実に人々は気付きはじめてしまったのだろう。「ソフトなければただの箱」とい うように、何かをする為の「ソフト」があって、それを動かす「ハード」がある 状態になってきている。つまり個人的な趣味や思い入れがない限り、「ハード」 を選ぶのは意味がなくなってきているということである。何をしたいか、何が出 来るかがわかったきている今、「ハード」を選ぶ作業はすでに無くなっている。 あとは「予算との兼ね合い」で機種を選ぶだけである。  それでもなぜX68000なのだろうか。我々X68000ユーザは「夢を見たい」のであ ろう。最後の「パーソナルコンピュータ」になりつつあるX68000に「何か出来そ う」という夢を求め、今もすがっているのである。今後ますます普通のユーザが 増え、なんの疑問も持たぬまま使っているなか、「趣味」のマシンとなりうるの はこのマシンだけになるのであろう。  ユーザの力によって、DoGA、TeX、GCC、GPP、ZMUSIC、PCM8、emacs、PIC形式 などが作られた。あったのはハードだけである。のっているのは「ユーザの夢」 である。ユーザは要求をはじめている。夢を阻む物がこともあろうに夢を実現す る筈のハードだからである。そのユーザを満足させるハードはなんであろうか。  CPUパワーの増加は必須事項である。最上位機種には68040,33MHzを載せるべき である。そして最下位機種は安くする。ラインナップを揃えるなら、 68040,33/25 MHz,68030,25/16MHz,68000,16MHzの計5機種揃えたい。そしてクロ ックアップ、030から040へのアップグレードが可能としたいところだ。まずは互 換性を保ったままにする。出来ればSX-WINDOW上で6万色使いたいので、G-RAMア ドレス可変にして1024x1024モードでも表示出来るようにして欲しい。そして 24bitフルカラーをサポート可能とすればSX上でレンダリングやレイトレースが 出来るようになって非常に嬉しい。記録メディアはFlopticalにHardDisk、 MO-DRIVE。メモリは最低4MB。  同梱ソフトには今はやりの「ストリートファイターII’」や、とにかくCPU パワーでおして「ギャラクシアン3」「スターブレード」が良いだろう。そして これまで無視されてきた「立体視端子」を用いた「バーチャルリアリティ」なも のにすれば失われつつあるX68000のアイデンティティである「至上最強のゲーム マシン」の座を復活することができるのではないだろうか。ワープロがなんだ。 ロータスがなんだ。パーソナルコンピュータは「エンターテイメント」なんだ。 ツールに身をやつすのは他のマシンに任せればいい。X68000には「エンターテイ メント」を提供し、ユーザに再び夢をみさせて欲しい。 '92.7.19 T.NOMA