なんかの拍子に気になってロータリーエンジン搭載のスポーツカーパッケージングを考えてみました。
もともとのキッカケはこちら。
▼マツダは欲張りすぎ! 孤高のロータリー搭載 FD3S RX-7とRX-8 ([の] のまのしわざ)
もう3年も前の記事となりますが、それ以降様々なスポーツカーを体験し知見も広がりました。
様々なスポーツカー、例えばポルシェ911やR35 GT-Rに触れて分かったことは、クルマにとって大事なのはトラクションということです。また今回鈴鹿のF1で前座レースのS-FJを見て、ポルシェカップ、そしてF1レースを通してみるといかにF1がダウンフォースでグリップを稼いでいるかがよく分かります。S-FJはウィングこそついていますがタイヤの幅が狭くグリップ力が限られていることとダウンフォースが不足しているため、1-2コーナーでフラフラして挙動不安定。それがポルシェとなると安定し、とはいえ一度リアが流れてしまうと綺麗にスピンしてしまいますが。
F1はS字コーナーを200キロ、アクセル全開で駆け抜けるほどのグリップ力をもっていますが、これはタイヤを押しつける力、ダウンフォースがあるから。逆にゼロ発進ではダウンフォースの恩恵は受けられず、2WDということもあり発進加速はよくありません。極論すればR35 GT-Rの方が速いです。
ただいずれにしても、S-FJ、ポルシェ911、F1に共通するのはリアエンジン、リア駆動ということです。それだけ駆動輪に重量がかかっていること、トラクションが重要なのです。
FD3Sをダートトライアルで走らせている時に一番の問題もここです。リアにいかにトラクションをかけるか、つまり前に進めるかがタイムを出すコツでした。ハンドル操作、アクセル操作いずれもシビアで、ちょっと乱暴に操作するとあっというまにリアがとっちらかって、横向いてドリフトとなってしまいます。ドリフトを目的にするのならそれもカッコイイのですが、タイムを削るタイムトライアル競技においては命取り。
FD3Sのこのナーバスな挙動は重量物が重心から離れたところにあることで慣性モーメントが大きいことが理由です。特に問題と感じたのは燃料タンクがトランク下、後軸の後ろにあること。振りだしたら止まらないというRR的要素も持っていますが、FRのためにRRのようなトラクションも得られません。つまりデメリットが大きいと。
RX-8はFD3Sから改良され、フロントのエンジンマウント位置が低くなりつつ、後ろに下げられました。これは慣性モーメント低減に寄与しましたが、4シーターパッケージングのために運転席位置は後ろに下げられず、結果どうなったかというと、エンジンと共に下がってきたミッションのせいでフロントシートの足元は圧迫され、なおかつシフトの位置が不自然に後ろになってしまっています。
これが身長が高く、足が長い人ならシートを下げればまあまあ許容できますが、私のようにシートを前にしてなおかつ直立状態で使うジムカーナポジションであると、シフトの位置が後ろに行ってしまうのでした。エンジン・ミッションが後ろに下がったなら、その分運転席も後ろに下げないと辻褄が合わない例です。
実はこの問題、86/BRZでも同様でインプレッサに対してエンジンを後ろに下げてあるのですが、2by2で運転席位置優先のためちゃんとシートとシフト位置が合っているのでした。ちなみにRX-8(前期型)と86/BRZは同じミッションを使用しています。
▼FT-86のミッションはアイシンAI製: 気になる AZ6・AY6の耐久性 ([の] のまのしわざ)
トラクションやパッケージングのことを考えると、何もFRにこだわる必要はないのではないか! と思い立ちました。
そうです、何もRXシリーズはFRである必要はないのです。今こそ蘇るべきは1970年に出したコンセプトカー、RX500。
▼CG CLUB EVENT Infomation●RX-500の誕生
マツダ創立50周年を意味する500番を与えられた車の開発記号はX810。これは1968年の10番目の試作番号を意味します。1970年1月、創立50周年記念の会場で1/2のクレイモデルが公開され、好評を得て、実車製作のへと進みました。ところがこの実験車両には特別な意味が込められていました。それはコスモ・スポーツの後継モデルの先行リサーチのミッドシップ実験車として1台製作されたのです。(中略)
RX-500のエンジンについて、東京モーターショーで型式が公開されておらず、巷では12Aペリフェラルポート・エンジンと噂されていました。それは1970年5月にカペラが市販され、12Aエンジンが搭載されていたことに起因していると思われます。
実際に搭載されていたエンジンは10Aエンジンで、1970年スパ・フランコルシャン24時間レース用のエンジンを10機作るときに、もぐりこませて作ったそうです。(中略)
なお、ミッションは、RX-87ルーチェ・ロータリークーペ用のミッションを流用したそうです。縦置きFFの13Aエンジンを持っていたからリア・ミッドシップが出来たということです。
リアミッドシップに縦置きされたロータリーエンジン。これならばトラクションを確保することもできるし、前後長の短いロータリーの特徴をいかしてミッションを含めて前へ前へと搭載することもできるやも知れません。室内長にふってもいいでしょうし、少なくともV8エンジン搭載よりも設計自由度が上がることでしょう。
実はこのRX500、当時トミカを何台ももっていたほど、好きなデザインなのです。今みてもうっとりするカッコイイデザイン。なにより誰にも似ていないオリジナリティ、リアセクションの形状からメンテナンスハッチの開き方まで素敵です。
ただ問題はこれを商品企画として考えた時、非常に障壁が高い、高すぎます。
ロータリーエンジンの技術的障壁の高さ、例えば現在要求される燃費性能を考えただけでも頭が痛い話。バルブ制御技術の発達したレシプロエンジンとはもうスタートラインが違いすぎます。高回転・高出力化は得意なのですけどね。
次に問題なのはミッション。MR用ミッションがない点。RX500が実現したのは縦置きFF用のコンポーネントがあったからで、というか縦置きFFのロータリーというのもまさに進化の袋小路。
ならばいっそのこと横置きミッションを使って、まさかのロータリーエンジンの横置き...プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッドであったということですけど、吸排気系の取り回しを考えるとなかなか実現は大変そうです。
ということを色々とマツダの開発、商品企画の人は来る日も来る日も考え抜いて、その挙句にやはり作れない、作らないという結論に達したのではないかと素人ながら思ってしまいました。
ただこの問題はパッケージングに商品性、効率性を考えてのこと。もうロータリーエンジンは効率性を追求するのではなく、「ロータリーエンジン」というエンジン進化の過程で発生したひとつの最終形態として、伝統芸能のように語り継ぐべき特別な存在でいいのではないかと。
つまりアフォーダブルな価格、実用性を考えた上でスポーツ性を追求するから成立しないわけで、そういった要件をすべて捨て、理想のロータリーエンジン搭載車をLFAのように高価格で限定販売すればどうだろう、という話です。
RX500にちなんで限定500台、お値段は1500万円。
LFAの3750万円に比べれば安いもの、そして世界のエンスー、スーパーカーマニアに向けて出すのはどうでしょうか。
どうせ縦置きMR用ミッションがないのなら、作ってしまえばいいだけの話。LFAやGT-RがATしかないように、この新RX500もATだけにするというのも一つの解法。いやここは逆にMTのみというのも硬派でいいかも知れません。いずれにしてもどっちつかずではなく、どっちかに大きく振った方がいいでしょう、そうであれば6MTですか。
ちょうどいいミッションがアイシンにありますよ。
▼マニュアルトランスミション(MT)の専門メーカー アイシン・エーアイ
こちらはポルシェ911用ですが、ボクスター・ケイマン用も同じミッションのはずなので、向きは逆でもつくはず。
MRのフレームやらサスペンションやら独自設計しなければなりませんけど、そこはレース経験も豊富で得意なことでしょう。アルミやカーボンなど軽量素材を使いつつ小さく、軽く作れれば素敵なロータリースポーツができるのでは。
ノスタルジーに浸るためだけのクルマがあってもいいのではないかと思う今日この頃。もはやハイブリッドにEVを飛び越えて、自動運転の時代ですからね。ロータリーエンジンは未来の技術ではなく、趣味嗜好の世界へと昇華した方が得策です。