高速道路の事故は突然に。蘇れ! 思い出のS2000

高速道路での事故は突然に。S2000大破(状況編) ([の] のまのしわざ)」のあとのストーリーです。


今回は趣向を変えて、海外の名番組「カー・SOS」風にお届けします。セリフは吹き替え音声を想像してお楽しみ下さい。

カー・SOS 蘇れ!思い出の名車|番組紹介|ナショナル ジオグラフィックチャンネル

ジェリー「おい、この車はどうしたんだ?」

リアタイヤがとれているS2000を見るなり驚くトム。

▼ 事故後、ローダーに載せられたS2000

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トム「どうしたって、直すために持ってきたんだよ」

ジェリー「直すって、これだけ壊れているんだ、どうみたって廃車だろう? こんなの直すのはバカげてる、オレたちの出る幕はないぜ。保険屋が査定して全損、保険金をもらって新しい車を買うのが当たり前だ」

トム「ジェリー、そうじゃないよ。この車は何か知っているかい?」

ジェリー「何かって、そうだな、90年代風のオープンカーだから...マツダロードスターだろ?」

トム「おいおい、このHマークのエンブレムが目に入らないのかい?」

ジェリー「H、、、ああ、そうか、ヒュンダイだ!」

トム「いくらなんでもそりゃないだろう、ホンダだよ、ホンダ、ほらF1やっていたし、今度また復活するホンダだ」

ジェリー「悪いが新しい車とF1は興味ないんでね...で、そのホンダのオープンカーがどうした。ビンテージでもないし、スーパーカーでもない、普通の量産車だろう。そのへんに程度のいい中古もあるだろうよ」

トム「いやいや、お前は分かってない。このホンダS2000は、ホンダの創立50周年を記念して作られた、ホンダ唯一のFR車なんだよ。しかも開発はあのNSXを担当した上原繁氏で、NSX並みに評価が高いんだよ」

ジェリー「ふーん、そうか。でも日本にはマツダ・ロードスターもあるし、世界的にみればポルシェ・ボクスターがあるよ。そんなに貴重な車とは思えないな。デザインも特徴がないし、なんというか...ぼやっとしてる」

トム「S2000の価値は見た目ではない、中身にあるんだ。じゃーん、このエンジンはどうだ」

トムがエンジンルームを開けた。


▼ S2000エンジンルーム

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ジェリー「見たところ2000ccクラスの普通のエンジンじゃないか」

トム「おいおい、お前の眼は節穴かい? ヘッドカバーは赤く塗られ、VTECの文字が彫られている。これは9000回転回る超高回転型エンジンで、2000ccで250馬力、リッターあたり125馬力を絞り出すんだ」

ジェリー「なんだって、9000回転も回るなんてレースカーのエンジンじゃないか。しかも4気筒だろう、そんなのは無理だ、非常識だ」

トム「だからいったろう、これはホンダのクルマだって。F1技術が応用されているんだよ。しかもエンジンの出力だけではない、その搭載位置を見てみろ」


ジェリー「随分と奥の方だな。ストラットタワー、前軸の後ろ側になっている」

トム「そうだ、これがフロントミッドシップ、ビハインドアクスルレイアウトという奴だ。エンジンの重心位置が前軸上にあるFR車は多いが、そんなのは生ぬるい、エンジン全体が前軸よりも後ろに積んであるのは他にはスーパー7とスズキ・カプチーノくらいしか思いつかないぞ」

ジェリー「そこまでするならミッドシップにすればいいのに...NSXみたいに」

トム「おいおい、そうじゃないんだよ。S2000はホンダが出した名車、S500の流れを組むオープンスポーツカーなんだ。S500はチェーン駆動のFRで、やはり高回転型エンジンが売りだったんだよ」

Honda | クルマ製品アーカイブ 「S500 / S600 / S800」

ジェリー「俺はこっちの方が好みだな。このS2000はなんというか...でかすぎる」

トム「まあ現代のクルマはどれもでかいからな。しかしそのおかげで安全性はとても向上している。このS2000もそうだ。これだけの大事故にも関わらず、乗員2名は怪我もなくピンピンしている」

ジェリー「衝突安全ボディのおかげだな。しかしその分、修理も難しくなっているのはトム、お前だって知っているだろう。これだけクシャクチャになったボディを切った貼ったして直したって、元通りにはならないよ」

トム「ああ、それは分かっている。でもな、まあオーナーの話を聞いてくれよ」

ここで突然オーナーのツニタキさん登場。

ツニタキ「はじめまして、ツネタケです」

ジェリー「どうも、ツニタキさんはじめまして。今回は災難でしたね」

トム「ツニタキさんは、このS2000を2002年に買ったんですね」

ツニタキ「はい、結婚してすぐにどうしても欲しくて、子供が生まれるまでという条件付で2001年式を購入しました」

▼ 2002年購入時
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トム「子供が生まれたのは?」

ツニタキ「もう少し先と思っていたのですが、1年後に生まれたんです」

トム「じゃあ1年で手放さなければなりませんね。ミニバンとかワゴンとか、5ドアの広い車に」

ツニタキ「ええ。でも手放すのが惜しくなって、都内から郊外の実家の二世帯住宅に引っ越すことにしたんです。そこなら2台車おけるからミニバンを買って、S2000もキープできる」

トム「ワオ、それって通勤が大変じゃ?」

ツニタキ「そうです、倍の1時間半から2時間かかるようになりました」

ジェリー「通勤に2時間だって!? 旅行じゃないか! 日本はどうかしてる!

トム「日本の通勤事情は悪いからな。それでS2000はとにかく手放さずに済んだのですね」

ツニタキ「ええ御蔭様で。しかしめっきり乗る機会が減ってしまい、その後10年で2万5000キロほどしか走っていません。今は丁度5万キロでした」

トム「S2000の魅力はなんですか?」

ツニタキ「とにかくその高回転型のエンジンとシャープなハンドリング、そしてなによりオープンなところですね。電動オープントップは世界最速の8秒で開閉できるんですよ」

トム「お子さんも気にいっている?」

ツニタキ「子供は2才くらいからS2000の助手席に乗せてワインディングに連れて行ってます。緑の中を駆け抜け、青い空、白い雲、そして新鮮な空気を楽しめるオープンエアースポーツは最高ですよ」

▼ 子供 2歳 S2000と子供 ([の] のまのしわざ)

▼ 子供 3歳 
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▼ 子供 4歳
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▼ 子供 9歳
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▼ 事故前日
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トム「そうでしたか。もう11年も乗っていて、今回事故に」

ツニタキ「はい、突然のことで...まさかタイヤがハブごととれてしまうなんて」

トム「買い替えることは考えませんでしたか? 例えば、トヨタの86とか」

ツニタキ「86にBRZは同じFR車としてもちろん気になる存在です。ただ同じ2000ccで200馬力ということと、リアシートが付いているけど実際には大人が座るには厳しいことや、オープンではないことを考えると、決め手に欠けるんです。S2000が修理できるのであれば、修理したいと。だから今回お願いしたんです」

ジェリー「そうは言ってもこれだけ壊れているとボディを切って、新しい鉄板を再度溶接することになりますよ。そうすると修理する左側と手を入れない右側とで剛性が変わってきて、敏感な人であれば左右のコーナリングが違うの分かってしまいますよ。せっかく修理したのに乗るたびに嫌になって結局すぐに売ってしまう、廃車にするってこともよくあります」

トム「ジェリーはせっかくいい仕事をしても、その後が心配というのだな。それは分かるが、心配はいらない」

ツニタキ「できればこの車は8年後に免許をとる子供に渡してあげたいんです。彼が生まれたときからある車で、子供の成長とともに過ごしてきた車ですから。この事故も同乗していました。今回残念なことになりましたけど、できることならこの車を修理して元に戻したいんです。だから他の個体に買い替えることも考えていません、子供の成長とともにあったこの個体じゃないとダメなんです」

オーナーは言うだけいって、去っていった。

ジェリー「トム、お前、わざと連れてきて話をきかせただろう」

トム「ああ、そうだ。そうでなければこの仕事、受けないだろう?」

ジェリー「情にほだされなかったら、こんな面倒な仕事、断っていたよ。見てみろよこのトランク。くちゃくちゃだぜ、叩いて伸ばしたって元の剛性なんて取り戻せっこない。左側は新品、右は12年5万キロ走行のくたびれたボディ、左右でバラバラだぜ。まっすぐ走る保証だってない」

トム「おいおい、それはお前の腕にかかっているだろう?」

ジェリー「出来ることと出来ないことがある。メインフレームが曲がっていたら、いくらフレーム修正機でも直せない」

トム「まあ、それは計ってみてからだな」

▼ フレーム基準値

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フレームの位置を計測、基準値と比べるジェリー。

▼ ゲージを使い位置を計測

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ジェリー「右側は問題ない。左側は前からの距離は問題ないが、ただ若干上にあがっている。サブフレームが曲がっているか、メインフレームが曲がっているかは分からないが、とりあえず車体が『くの字』に曲がっているということはないな。見た目は大袈裟だが実際には柔らかい場所で全部衝撃を吸収している。硬いところはほぼ無事だ」

▼トランクの左側のフロアがくちゃくちゃに。メインフレームは無事

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トム「リアのフレームが上にあがっているのは、ローダーに載せるときUNICのクレーンで上に引き揚げたからじゃないのか?」

▼ クレーンで持ち上げながらローダーに積載。この時見た目でもボディが歪むのが分かった

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ジェリー「それなら納得がいく。モノコックフレームが潰れたところにクレーンで車体の半分以上の重量がかかれば曲がるのも当然だ。ただその程度の負荷なら数百キロだろうから、10万トンのフレーム修正機で逆向きに力かければ元に戻せる」

トム「それなら直せるんだな!」

ジェリー「ああ、まっすぐは走る。あとは左右の剛性のバランスの問題だ。左側をごっそり入れ替えるから、それに合わせて右側も手を入れたいのだが...」

トム「右側の剛性を調整するんだな。それはオーナーから許可を得てある」

ジェリー「それならいけそうだ」

トム「やったな、じゃあ早速部品の手配だ!」

ジェリー「ああ宜しくな、メーカー欠品が多いから今発注しても来るのは10月中旬以降、着手は11月になりそうだ」

トム「年内で終わるかな?」

ジェリー「年内に仕上げないと売上計上できないぞ、それに後ろも詰まっている。長引かせる気はないが、とにかく部品次第だ」

トム「わかった。早速部品を調達してくるぜ」

・・・

※注意)
このストーリーは実話をもとにしたフィクションです。誇張、演出、個人の意見などが含まれておりますが、車の状態についてはほぼ正確です。

ということで、世界の名車、S2000はZIIBO HOUSE様にて修理することになりました。なお、トム&ジェリーという外人はいません。星野さんという日本人がやっています。FD3S RX-7のダートラでもお世話になりました。

ZIIBO-HOUSE Total Body Service

ZIIBO HOUSEではこんな車のレストアもやっています。

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まさに蘇る世界の名車、FIAT 131 アバルト・ラリー!