ポルシェ・ミュージアムから向かった先は、同じシュツットガルトにあるメルセデス・ベンツ・ミュージアム。
この付近はまさにベンツ村、博物館に工場はもちろん、ベンツ・アリーナという球場まで、まさにベンツ・ベンツ・ベンツ。
入場料を払い中に入るとレトロモダンなエレベータを使い一気に一番の上のフロアまで。一気に19世紀末まで時代を遡ります。
博物館、最初の展示物はとても重要です。というのもその博物館が何を目的に、何を見せたいのかはっきりと、しかも強烈な印象を与えるからです。その重要な最初の展示物はこちら。
▼世界初、ガソリン自動車「ベンツ パテント モートルヴァーゲン」
そうでした、内燃機関によるガソリン自動車を発明したのは他ならぬベンツだったのです。
当時ポピュラーだったのは蒸気機関、蒸気機関は外燃機関でエンジン自体が大きいのが欠点で船や汽車に使うのはまだしも、小さな自動車に載せるのは大変だったのです。それでもフランスのキュニョーが開発、フロントエンジン、フロント駆動、操舵もフロントで重量物が前に集中し初のテスト走行で世界初の交通事故を起こしたことでも知られています。
その点ベンツの開発したガソリンエンジンを使った自動車は現代の自動車と近く、ミッドシップエンジン、リア駆動、フロントで操舵となってしかも2~4人乗り。
エンジンは単気筒、出力が小さいため大きなフライホイールがついているのがこのころのエンジンと特徴です。
内燃機関の発明とあいまって、この小さなエンジンを色々なものに付けたものが展示されていました。
そして登場するのが優美なデザインと豪華さで有名なメルセデス。当然のことながらこの時代、貴族のための自動車なのでこのような美しく機能性にあふれるものは人気となります。一方でただ豪華さや美しさを競っているわけではなく、性能、特にスピードも同時に求めます。そうです、レースです。
ベンツの歴史はすなわち、レースの歴史でもあります。機械としての正しさ、品質高性能さをアピールするためのレースであり、現在のF1参戦やDTMなど多岐に渡ってレース活動を継続しています。
そしてもうひとつ、自動車につきものなのが交通事故。スピードを出すがゆえに受ける衝撃も大きく、衝突安全性を含めて様々な安全対策をいち早く対応してきたのもベンツの特徴。
自動車の後ろにジェットエンジンのブースターを取り付け加速。そのまま壁面にぶつける衝突テストをいち早く行いました。さらに人的被害の状況をみるためのダミー人形の開発。いまや当たり前となっているものですが、これらを世界に先駆けて行っている点、そしてそれにより安全性といえばベンツと言われた時代を築きあげています。1980年代、医者が子供に勧める車種といえばベンツ、というのは有名な話。
今となっては堅そうに見えるエアバッグも世界初で開発しています。
▼データロガー車、1960 Mercedes-Benz 300 Messwagen
自動車がどのように動いているのか、より具体的に調査をするためにデータロガーを搭載。登場は計器が大きく車載しきれないため、なんとケーブルを外に出し、別のクルマ Messwagenにて記録、解析をしていたというものです。しかもその Messwagenが近未来的でカッコイイ。サンダーバードに出てきそうです。
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ベンツの歴史は自動車そのものの歴史、といっても過言ではありません。それだけにいち早く未来を見据えて、「言われたからやる」「規制ができるから合わせる」ではなく、将来こういった技術が必要、より性能向上を求めて自主的にやる姿勢。それがあるからイノベーションが生まれるのでしょうね。そんな企業態度が見えてきます。
自動車と同時にドイツの歴史を背負う気概もあります。第二次世界大戦時代をも振り返り、二度とあの独裁政権を許さないという決意も垣間見えました。
そんなわけで自動車産業の聖地となっているシュツットガルト。近くにはオーバルのテストコースがあり、AMG Driving Academyが開かれていたりと、自動車を作るだけではなくドライバーを育成しようという試みもあります。
最終的に自動車はドライバーがハンドルを握るものですからね、どんなにクルマの性能が上がったとしても人間がダメなら宝の持ち腐れ。
ポルシェもそうですが、人間と機械の信頼関係を築くこと、を主眼に置いている気がします。ドイツは機械に対して正直、というのは行く前の印象でしたが、今回の博物館見学でなお一層思います。機械だけでもダメだし、人間だけでもダメだしということですね。
実はこのことは道路に対してもいえますが、これはまたの機会に。