▼香りたつフランスのクルマ、ルノー・カングー・エクスプレス・コンパクトの試乗レポートはじめます、▼フランスの働く男のクルマ の続き。
日本に1台しかない、貴重なカングー・エクスプレス・コンパクトはシーフォ(SiFo)さんからお借りしています。ありがとうございます!
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どっからどうみても速そうに見えない、働く男のクルマ、カングー・エクスプレス・コンパクトで奥多摩周遊道路を走ってきましたよ。背高商用車だし、曲がるわけないとおもいきや。
とにかくよく曲がるんです!
アンダーステア、何それ? という感じで切れば切るほど曲がる。
ロール?
ロールなんてもう盛大です。助手席の子供がシートからこぼれおちそうになるくらい。
ロールしたらアンダーにならない?
ならないんですよ、ロールした分曲がっていくという、もしかしてこれが噂の
ハンドリングがいいという奴ですか!?
実はこのクルマ、ルノー自身「ルノーのベストハンドリングカー」と呼んでいて、お借りする時にそれを聞いていたのですけど、まさかこれほどとは。このクルマの前ではS2000もMINIもアンダーステアです。
Renault.com - Renault Kangoo Express, Compact & MaxiLike its larger sister, Kangoo Express Compact is also built on the Scénic chassis and features outstanding handling.
●ハンドル入れる、頭が入り、曲がる。
これは大抵のクルマがそうです。しかしここからが問題。
●さらにハンドルを切る、曲がっていかない。
そう、これがアンダーステアと呼ばれるもの。切っても曲がらない、曲がらないからアクセルを踏めない。またはコーナー手前でスピードを落とすようになります。
ところがこのカングーは違います。
●さらにハンドルを切る、さらにロールする、さらに曲がる。
●もっとハンドルを切りこむと、もっとロールする、もっと曲がる。
えええーーーー、なにこれ!
奥多摩周遊道路を含め、周辺道路はワインディングで曲がりこんでいるカーブが結構ありますが、この回りこんでいる、曲率がきつくなるコーナーをハンドルを切りたすだけでクリアしていくんです。そんなバカな。ありえない。
だってこのユーモラスな顔つきですよ。
「スポーツモード」とか電子制御の何かがついているかと思えば、シンプルなインパネにそんなスイッチなどあろうはずもなく。
だとするとこのヒミツはきっとサスペンションにあるに違いない! と下回りをチェックです。
フロントはフツーのストラット式サスペンション。
リアはフツーのトーションビーム式サスペンション。
ごくごく普通です。ではこのダンパーに何かヒミツがあるに違いありません。ほら、ヨーロッパにはビルシュタインとか、ザックスとか、オーリンズとかいいのあるじゃないですか・・・
ってそんな上等なダンパーなら色がついてたりして一目で分かるはず。でも普通の黒ですし、そもそも商用車でそんなコストがかかっているとは思えません。
となるとヒミツはどこに隠されているのだ!
ええい、この料理を作った料理人を呼べ!
料理人はどこのドイツだ!
フランスだ!
・・・美味しんぼの海原雄山になりかかりました。
ここで美味しんぼなら「素材にこだわり」「新鮮なうちに」「惜しげもなくふんだんに」とか出てくるんでしょうけど、このクルマはいわば定食屋のカツ丼みたいなもの。そんなものはありません。
つまりヒミツはないんです。
クルマをごくごく普通に作ったらこうなった、というやつです。ハンドルを切ったら曲がる、それが普通でしょ、。切り足したらさらに曲がる、それが当たり前じゃない、それともオタクの国の車はハンドル切っても曲がらないのかい? というシニカルなフランス人の顔が浮かびます。
そうだった、そうでしたよ。車はハンドル切ったら曲がるものでした。でもそれってもはやごく一部のスポーツカーでしか味わえないものだと思ってました。
ところがこのカングーエクスプレス、値段でいってもかなりお安く日本でいえば軽バンみたいな位置づけの商用車。その商用車がスポーツカー顔負けのハンドリングなのです。全高1.8m以上の背高バンがフラフラしないなんておかしいじゃないですか。
きっとマリー・アントワネットがこう言ったに違いありません。
「背高でフラフラするなら、幅広にすればいいじゃない」
全幅は1.83mと1.6リッターの車とは思えないほどの車幅。もちろんこれは中にパレットをそのまま積むために必要なサイズだったのでしょうけど、同時に安定性を増したに違いありません。
日本車であれば前述したように、ハンドル切っても曲がらない、アンダーステアが強くてスピードを落とさざるをえないということになったでしょう。しかしここはフランス、アルプス越えがある国。
「峠で曲がらなくてどうする!」
「ハンドリングがいい車が高級車だけなんて!」
「我ら(市民)にハンドリングを!」
そうです、これは
ハンドリング市民革命
だったんです。
世界で初めて市民が自らの手で自由を勝ち取った国フランス。働く男のクルマであろうと、高級車であろうと、ハンドリングは平等であるべき、という気概が伝わってきました。なにせ今でも議会で何かあるたびに農民が怒ってトラクターで国道を封鎖するお国柄ですからね。
それに比べるとまだまだ日本は階級社会。安いクルマでは
「ハンドリングが欲しいだなんておこがましい、貧乏人は乗れるだけで幸せと思え」
ばりにおざなり。まさに
ハンドリング封建社会
です。
ハンドリングの市民革命といえるルノー・カングー・エクスプレス・コンパクトですが、そのハンドリングの味付けは決して一朝一夕でできたものではないでしょう。機構的にはとても平凡なフロントストラット、リアトーションビームの組み合わせ。たとえ上級車種セネックのシャーシを使っているとはいえ、重心も高めで開口部が大きなボディは剛性面で不利です。ところがそんなデメリットを感じさせない、ハンドリング。
これはもはやワインのソムリエやフランス料理人にも通じる職人芸によるもの。数値ではなく、感覚。いかに人間のフィーリングにあったコーナリングができるか。それを実現するためのシャーシやサスペンションセッティングをしたに違いありません。まさに一子相伝の
「秘伝のタレ」
に漬け込んだ、老舗の味といったところ。
タイヤだってごくごく普通の185/70R14サイズ。70扁平のタイヤのグリップをうまく使ってます。当然横方向のグリップは望むべくもなく、そこでうまくロールをさせることで荷重をかけ、縦グリップを使って曲げているんでしょうね。いやはや、まさに魔法です。
そんな魔法のハンドリングで郵便配達のオジサンから、花屋のおねえさんまでアルプス越え。
ということで次のクルマはアルプスの名前を冠したものをご紹介しましょう。まだまだルノーシリーズ、続きます。
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