なかなか新聞がとりあげないトヨタの報道ですが、週刊現代では6ページを使ってこれまでの経緯をまとめ、さらには真相まで迫っています。
大筋は私が追っているのと同じなので割愛し、気になるところをいくつかご紹介。
「米国陰謀説」について
レクサス暴走事故:トヨタの巧妙なミスリードに米当局が真っ向から反論 ([の] のまのしわざ)不況になると「buy american」といった機運が高まるので、そういった社会背景を受けていると考えると米メディアのトヨタ・バッシングともとらえられます。
と書きましたが、ここでもその点について触れています。
米国の大手メディアは、このトヨタの品質問題を大々的に報じている。しかし、新聞やテレビなど日本の大手メディアは、この問題を大きく報じていない。 (中略) そればかりか、日本では「米国陰謀説」すら流れる。 (中略) だが筆者は、これは大きな消費者問題であると考える。週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
このようにジャーナリスト井上久男さんは明確に「米国陰謀説」を否定しています。
では原因はどこに。行き過ぎたコストダウンの歪みや、部品共通化によるリコール台数の爆発的増加など複合要因があるようです。
たとえば、以前のトヨタには、メーカーがひとつ100円の部品を10円コストダウンしたら、90円ではなく95円で買うような風土があった。 (中略) 「CCC21」以降は利益をトヨタが根こそぎ持っていくようになった。このため「これまでは一心同体だった部品メーカーの心がトヨタから離れた」(部品メーカー幹部)。週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
CCC21とは2000年に渡辺前社長が調達担当の役員時代、主要170品目の原価を3年間で30%も削減する、日産のゴーン氏のようなコスト削減。これがトヨタ車の品質低下につながっているという見方です。
また急激な業容拡大した影響もあると指摘しています。
1979年に300万台を超えたトヨタの全世界販売台数が600万台を超えたのは2003年。300万台増やすのに24年を要している。 ところが2008年には897万台を記録し、わずか5年で300万台近くを上乗せしているのだ。週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
この結果「人材育成は品質管理能力が追いつかず、身の丈を超えた経営になってしまった」(トヨタ幹部)との発言も。
さて暴走時にブレーキが効かなかった件についても同じく指摘しています。
さらに重要な問題がある。ブレーキを踏んでも効かなかった点だ。何か不具合が生じた場合でも昨日する「失陥制御(フェールセーフ)」の視点が設計上欠けていた可能性がある。アクセルが戻らなくても、ブレーキを強く踏めばエンジンが切れるシステムであれば、事故は回避できていたのではないか。週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
トヨタのある関係者は「アクセルを強く踏んだ状態でブレーキをかけた場合に、どちらの信号を優先させるか決まってなかった可能性が高い。運転者がブレーキを強く踏んだら、アクセルを利かなくする仕組みが必要で、それが『失陥制御』の発想だ」と説明する。週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
現代の車は各ユニットがECUと呼ばれるコンピュータで電子制御されるのが普通で、高級車ともなると70個近くが使われるそうです。
「たとえば、衝突を回避するシステムでは8個のECUが関連して動いているが、走行中に車の安定性を維持するECUと、ブレーキを制御するECUが違った判断をして反発しあうこともある」(トヨタエンジニア)。週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
この反発を「干渉」と呼びますが、システムを統合する上で擦り合わせをして調整する能力がトヨタは高かったといいます。ところが2005年、お台場に制御ソフトウェア開発室を新設。ハードウェア開発部隊とソフトウェア開発部隊が地理的に分断されたことで、十分なコミュニケーション、つまり「擦り合わせ」は至難の業と指摘しています。
ギアをN(ニュートラル)に入れられなかった可能性もありますが、それもありうる話です。
最後に社長の懊悩でしめています。
トヨタは「消滅」一歩前のところまで追い込まれている--社長自身がそう認識し、懊悩しているのだ。
(中略)
就任からようやく半年を迎える新体制に、苦悩の日々が続いている。(終)週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
この暴走事故に限らず、インドなど新興国市場での出遅れ、欧州の拡大戦略の失敗、米国などでの過剰な生産設備など課題は山積みです。
とはいえブランドイメージの失墜や大量リコールの可能性を最小にしようと広報があの手この手を使っているのは見て取れますが、逆効果になっているように感じます。
レポートの冒頭に、
「米国のフロアマット問題で、どういう事態が起きているのか、正確に説明して欲しい」トヨタ自動車の豊田章男社長は先月、系列の部品メーカーの社長からこう迫られた。
週刊現代 2009年11月14日号:内幕レポート「トヨタの苦悩」報じられない米国死亡事故の深層
とあったように、今求められているのは「正確な説明」です。きちんと説明せず、その場凌ぎでいうから「隠蔽している」といった憶測がでたり、実際次々と新事実が明るみになったりと事態は深刻化しています。
自動車は工業製品ですから、なにか不具合があってもおかしくありません。そのために「リコール」という制度で対策します。「リコール」がコストになるからなんとかリコールを免れようとして、あの手この手を使っているのが裏目に出ているのが現状ではないでしょうか。
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