レクサス暴走事故:トヨタの巧妙なミスリードに米当局が真っ向から反論

実は昨日レクサス暴走事故問題で「レクサス暴走事故:暴走の原因はマットのみ、車両側不具合なし」というエントリーを下書きしたのですが、今日になって新事実が明らかになって書き直しです。

時系列を追って、説明しましょう。

レクサス暴走「アクセルに問題」…米当局が報告書 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

【ニューヨーク支局】25日付の米ロサンゼルス・タイムズ紙(電子版)は、トヨタ自動車の高級車「レクサス」が米国で暴走事故を起こした問題で、米高速道路交通安全局(NHTSA)がまとめた新たな報告書で、アクセルペダルの形状に問題があると指摘していると報じた。

(中略)

このほか、レクサスはエンジンが全開になるとブレーキの力が車を停車させるのには不十分であることにも言及している。

(略)

(2009年10月26日03時02分 読売新聞)

NHTSAは兼ねてから車両側の不具合や、フェールセーフ機構について調査、改善を要求してきていました。

事故原因はマット誤設置 米当局「レクサスに欠陥なし」 : ニュース : @CARS : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

【ニューヨーク=池松洋】米トヨタ自動車販売は2日、米国で販売した高級車「レクサス」の暴走事故などについて、米高速道路交通安全局(NHTSA)が「過去の調査で車両には欠陥がない」とする報告書をまとめたと発表した。

(2009年11月4日 読売新聞)

これを読む限りはNHTSAが「車両側の不具合がないことを確認」したととれます。あれだけ修正要求を出していたのに、ずいぶんと様変わりしたなあという印象です。

ここまでが昨日。これをベースに、トヨタのプレスリリースの原文を私も確認。

Toyota Vehicles : Toyota Begins Interim Notification to Owners Regarding Future Voluntary Safety Recall Related to Floor Mats / Toyota

The letter, in compliance with the National Traffic and Motor Vehicle Safety Act and reviewed by the National Highway Traffic Safety Administration (NHTSA) also confirms that no defect exists in vehicles in which the driver’s floor mat is compatible with the vehicle and properly secured.

フロアマットの誤装着以外に原因がみつからなかったので、フロアマットさえしっかり固定していれば起きない、暴走しなければ問題ないというのがトヨタの見解ですね。

そして今日。

レクサス「欠陥なし」は不正確、米当局が声明 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

【ニューヨーク=池松洋】米高速道路交通安全局(NHTSA)は4日、米トヨタ自動車販売が米国での高級車「レクサス」の暴走事故を巡って、当局が過去の調査で「車両自体に欠陥がない」との報告書をまとめたと2日付で発表したことに対し、「不正確で誤解を招く」との声明を出した。

(2009年11月5日11時01分 読売新聞)

この「不正確で誤解を招く」に関して、朝日新聞が詳報を出しています。

 米国でトヨタ自動車のレクサスが暴走し4人が死亡した事故で、米有力紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3日、「トヨタの暴走問題はまだ解決していない」と題して、トヨタの広報姿勢に疑問を投げかける記事を掲(1/2ページ)

ニューヨーク・タイムズが問題視したのは、トヨタが、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)の見解を発表した点。今回の事故調査でフロアマット以外の欠陥を確認できなかった、との誤解を与えかねないと指摘した。

 同紙の取材に対しては、NHTSAの報道官は、問題はフロアマットだけでなく、アクセルペダルや床板の形状も含めて調査中と答え、この問題が終わっていないとの見解を示したという。

 トヨタが使ったNHTSAの見解は、8月の死亡事故より以前に発生したレクサス車の暴走問題に関するもので、その際の報告書を不服とし、追加調査を求めた人への回答だった。その結論でNHTSAは「追加調査しても、車両の安全面での欠点が存在する結論にはなりそうにない」と調査の打ち切りを正当化。一方「欠陥が存在しないという結論を意味しない」と結び、フロアマット以外に欠陥はないとは断定しなかった。将来、事態が変われば追加調査をするだろうとも記した。

(2009年11月5日6時41分 asahi.com)

最後の部分の原文は以下。

(トヨタが引用したNHTSAの報告書の結論部分)

V. CONCLUSION
Toyota has initiated a safety recall (Recall 09V-388) to address concerns with potential
accelerator pedal entrapment by floor mats in approximately 3.8 million vehicles, including the
subject vehicles. Except insofar as the petitioner’s contentions relate to that recall, the factual
bases of the petitioner’s contentions that any further investigation is necessary are unsupported.
In our view, additional investigation is unlikely to result in a finding that a defect related to
motor vehicle safety exists or a NHTSA order for the notification and remedy of a safety-related
defect as alleged by the petitioner at the conclusion of the requested investigation. Therefore, in
view of the need to allocate and prioritize NHTSA’s limited resources to best accomplish the
agency’s safety mission, the petition is denied. This action does not constitute a finding by
NHTSA that a safety-related defect does not exist. The agency will take further action if
warranted by future circumstances.


なおトヨタのニュースリリースに対する、NHTSAの反論のプレスリリース(原文)は以下。

Press Releases | National Highway Traffic Safety Administration(NHTSA) | U.S. Department of Transportation

The National Highway Traffic Safety Administration (NHTSA) issued a statement today correcting inaccurate and misleading information put out by Toyota concerning a safety recall involving 3.8 million Toyota and Lexus vehicles:

つまりNHTSAはトヨタのニュースリリースの内容について「不正確で、ミスリードする内容」だと反論したんです。ドメインをみても明らかなように、.govですからね。当局がそのようなプレスリリースを出すことは異例です。NHTSAの承諾抜きに「NHTSAも車両に欠陥がないことを確認した」というニュースリリースをトヨタが出してしまったとは驚きです。

兼ねてから指摘しているように、今回の問題点も同じです。

レクサス暴走事故の対応にみる、トヨタの闇の深さと暗さ ([の] のまのしわざ)

トヨタの問題点はいつも同じです。地獄のF1富士の時に感じたことと一緒です。

・事実を覆い隠そうとする

・メディアでの報道を少なくする(広告代理店、メディアが自主的に行っているきらいもあり)

・ユーザーのせいにする

・ウソをいう

今回はウソに限りなく近いミスリードを起こすようなニュースリリースを出して、世間を誤魔化そうとしたことが、NHTSAが即座に反論したことで明るみに出ました。

次に気になるのがメディアでの報道について。

【その他での報道】

ブルームバーグ:トヨタのリコール文書は「正確性を欠く」、床マット問題で-米当局 - Bloomberg.co.jp
中日新聞:中日新聞:米当局、トヨタ対応批判 フロアマット問題:自動車産業ニュース(CHUNICHI Web)

実はこの数日、トヨタからは数多くのリリースが出ています。実は最後のNHTSAが反論したという報道は、例えば毎日新聞では夕方時点で報道されていません。その前の「車両に問題なし」の報道だけで終わっています。その他はF1の撤退、トヨタの決算のニュースなど。

夜中になって再度調べてみたところ、毎日新聞での報道を発見。

米道路交通安全局:フロアマット問題でトヨタの対応を批判 - 毎日jp(毎日新聞)

トヨタ自動車が米国で販売したハイブリッド車などのフロアマット問題をめぐり、「車自体に欠陥はない」と発表したことについて、米道路交通安全局(NHTSA)は4日、「発表は不正確で誤解を与える」との声明を発表、トヨタの対応を批判した。声明は、この問題は設計上の欠陥とかかわっていると指摘し、トヨタに改善を求めた。

(毎日新聞 2009年11月5日 21時22分)

朝日新聞から遅れること15時間、読売新聞から遅れること10時間です。時事通信ではまだ確認できてません(11/6 2:39am現在)

もう一つ注意しなければならないのは米メディアに関して。

現在のアメリカの置かれている状況としてビッグスリーが凋落し、トヨタが最大規模かつ、ハイブリッドという将来性ある技術をもっています。特にハイブリッド車を製造するための特許を広くおさえており、ビッグスリーが浮上する見込みがないというのが一番悔しい点でしょう。

そのため、トヨタを相手取り特許侵害訴訟も起きています。

「トヨタの特許侵害調査へ ハイブリッド車で米委員会」:イザ!

米国際貿易委員会(ITC)は6日、トヨタ自動車の一部のハイブリッド車種や部品について、自社特許の侵害を理由に輸入と米国内販売の差し止めを求めた米企業の訴えを受け、関税法337条に基づく調査を開始すると発表した。

不況になると「buy american」といった機運が高まるので、そういった社会背景を受けていると考えると米メディアのトヨタ・バッシングともとらえられます。

ただそれを差し引いてもトヨタの対応はお粗末だと感じていますが。いましばらくはこの件、目が離せないですね。

【関連エントリー】

レクサス暴走事故の対応にみる、トヨタの闇の深さと暗さ ([の] のまのしわざ)

レクサス暴走事故:暴走するとブレーキは効かない。Nレンジにも入らないかも。 ([の] のまのしわざ)